Kawasaki ZX-10R 試乗記

 またがっての第一印象は、かなり腰高である事。シートは固く、停車状態ではその上で暴れてもほとんどサスは動いていない(標準設定かどうかは未確認)。
 神戸ナンバーのこの車体はあちこち試乗に回っているようなので、全くアタリが取れていないという事はないはずなのだが(走行距離は確認していない)。
 軽量な車体でこのようにサスが固いのでは、はねまくって一般道ではとてもじゃないが走れないのではと思うと同時に、パワーが出ている裏返しなのか?、という思いも頭をよぎった。

 メータはタコを外周に、内部に速度と水温などを表示するユニットがひとつあるだけで、こんなところにもコンパクトさを感じる。ただし、デジタルタコは液晶のバーが増えたり減ったりするタイプで、あまり自分は馴染めなかった(慣れ?)。

 クラッチ、アクセル、ブレーキレバーの操作性は特に気になる部分もなく比較的軽め。これは試乗を通じて印象が変わる事はなかった。左右レバーが従来より薄くなっているようで(まさかこんなところまで軽量化?)華奢な気もするが、これはこれで悪くない。
 バックミラーに映る範囲は(それほど真剣に調整したわけではないが)真後ろはやはり見えない感じ。ミラー面に半分近く腕が映り込む。

 ポジションはハンドルが近くかなりコンパクト。ステップ位置は思ったほど高くもなく後退もしていない?軽くハンドルを握った状態では、ステアリングヘッドが顔の下というかもっと手前にある感じで、ヘルメットをカウルの前に突き出しているような気がしてくる(笑)。

 エンジンはアイドリングから結構にぎやかだ。ギャインギャインと何かと思ったら、どうやら倍速ジェネレータがそんな音を立てているらしい。カラ吹かしでは特別な印象はない。まあ、R1のエンジンもかなりレスポンスは良いので、他のバイクに乗っていればまた違った印象になったかもしれない。排気音はどこかで迫力を感じさせるが、やはり純正。音量も控えめだ。

 走り始めのクラッチミートはそれほど神経質になる必要はないが、ややギヤ比は高めのようだ(雑誌によれば1速回し切りで160km)。いきなりエンストはしないが、はっきり半クラッチを意識しなければならない。そろりと繋いでしまえば、(1速なら)1000回転弱からでも普通以上には走れるので、普通は低い回転で繋ぎきってからアクセルを開けて加速、という乗り方に自然となるだろう。
 停車時に腰高感が強いポジションも、走り出してしまえばハンドル、シート、ステップの位置関係は具合が良い。その後に停車する時にも、自分の場合は足を出すのにステップがちょうど邪魔しない位置にあり、思いの外、好印象だ。

 ちょっと走るとすぐに、極低速でも珍しく直進性の強いディメンジョン設定である事がわかる。最初、交差点を曲がるときに「おっ」と思うほど手応えがあり、直線でスラロームなどしてみても、やはり結構な抵抗感がある。
 雑誌などで、04モデルでステアリングダンパーを装備していないのはこの10Rだけなのを知っていたが、はっきり言ってこれはちょっとしたダンパーが付いているのではと思わせるほどの違和感で、こういったディメンジョンの設定をするのと、ダンパーを実際に付けてしまうのと、どっちがいいのか判断に迷う(笑)。
 しかしこれはサスの固さの印象でも述べているように、上でパワーが出ている事と無縁ではなかろう。
 低速から高速まで、万能にこなせるセッティングというのは、実のところメーカーでも難しくなってきているのかもしれないと思わせる。

 1、2速なら2000〜3000rpmでアクセルをやや開け気味にすれば思った加速を得られるが、これが3速以上ともなると正直この回転域では加速しない。自由に加速を引き出すためには4000〜5000rpm以上が必要といった感じ。街中の走行中にちょっとしたシーンでぐっと加速するような、動力性能の余裕を周りに見せつけるといった大排気量特有の主張は、しにくい(笑)。

 定められた試乗コースは郊外のバイパスを通るようになっていたので、フルバンクを試すような場所こそないが(初めて乗ったバイクではちょっと勇気ないし(^_^;)逆に交通量を見ながらではあるが度胸と相談して1、2速あたりなら瞬間の回し切りも試せる(おい)。
 低速からのアクセルワイドオープンは多分、中速あたりから前輪が宙を舞ってしまうだろうから(またまた初めて乗るバイクでそれは勇気がいる(^_^;)、6000〜7000までは全開一歩手前で接地感を確実なものとしておき、そこから問答無用の全開をくれてみた。
 意外やこの方法だと、ある回転域からいきなりパワーが乗るといった事もなく、力量感を伴ってキレイに自然に伸び上がる。
 ただし、視界の隅に捕らえているタコメータの指示が11000辺りから、更に一段、猛烈な加速を浴びせる感じで「こんなところからまだ伸びるのかよ」と思ってシフトする瞬間に、なにかピカッとオレンジ色のランプがメータの辺りで光った。
 確かレッドゾーンは12700〜12800くらいからの気がしていたけど、この間はホントに一瞬だ。
 後で聞くと、シフトタイミングを示す(設定可能)インジケータが付いてるんだとか。ちなみに何回転にセットしてあるかは聞き忘れたけど…。
 このような状態でも車体の安定度は素晴らしく、未知の加速力に対する恐怖心さえ押さえ込めれば、意外に平穏な世界(?)だったりする。
 その後のブレーキングも実にコントローラブルで、文句の付けようがない。ある程度握り込みの幅があり、そして握り込んだ時の絶対制動力は軽さも手伝って本当に強烈。パンパンに張ったようなタッチが好みの人もいるだろうが、ワシの場合は握り込みに幅がある方が好きだ。
 所有しているR1はフロントに比べてリヤがやや効き過ぎるきらいがあるが、10Rはリヤもある程度の踏み込み幅が確保されていて、かつ効きもR1よりは弱い。初めて乗っても非常に扱いやすいブレーキと感じた。

 定かではないが一般道40〜60キロのある回転域にて妙にカウル周りにビビリ音が出て気になった。何か共振点でもあるのかそれとも固体差なのか…。
 軽く流していると気付くのは、固いサスだが作動性がすごく良い事だ。さすがにフロントフォークDLCコーティングは伊達ではない(スズキとの提携メリットか(^_^;?)。決して乗り心地がいいとは言えないが、段差を拾っても角の丸いショックが軽く伝わるだけで、細かいギャップはほとんど伝えてこない。新車に近いからかもしれないがそんな時にもカウル周りががさつく感じもほとんどなく、フレームのがっしり感もあり部品の組み付けもしっかりしてそうで、かなり上質なフィールだ。少ししかストロークしていない事を考えると、本当にびっくりする。
 ワシの1万キロオーバーのR1ではこうはいかず、サスが柔らかいにも係わらず、ギャップに飛び込むとガシャパキゴソゴソと結構にぎやかな音がする(^_^;。
 まあ、それゆえ、前出のビビリのようなものが出るのは本当にザンネンに思った。

 雑誌の試乗記などでは、ミッションに少し問題があるのではといった内容を見掛けるが、ワシが乗った限りでは全くそんな感じはなかった。それを言うなら、ワシのR1の方が入りが固く「ちょっとなんとかならないか」と思うほど。それに比べればストロークもあり、作動感も確実。試乗中ギヤ抜けするようなそぶりも見せなかった。
 もっとも雑誌のようにサーキットで連続全開走行ってな状況ではどうなのかは分からない。ただし試乗後に10Rを持ち回っているカワサキの担当に聞くと「あの時はまだ急がされて試作段階のものだった。現在は既に改良されている」というコメントをもらっている。
 少なくとも、98-99R1のようなミッションの固さは無かったのは間違いない。

 試乗車はワシの好みから言えばアクセルのアソビが多めだったが、それを差し引いても特に「インジェクション」を意識するような場面はなく、特にギクシャクしたような覚えもない。

 ところで、総じて恐ろしいほどの高速域ポテンシャルを秘めたバイクである事が分ったが、試乗を終えたワシはフクザツな気分だった。「もうこれは一般道を走る乗り物じゃなくなっちゃった」ってのが正直な感想だ。
 1速100キロでパワーバンドに入ってこないようなエンジンを、どうやってその辺の峠で使えって言うんだ(もちろんそれ以下でも必要十分なパワーは出てるけどね、一応気持ちとして(^_^;)。

 それからしばらく10R持ち回りの担当と、かなり神妙に話し込んでしまった。
 その話によれば、やはり近年は無改造に近いレースが多いので、マシンのベースポテンシャルが重要だという。そこでどうしても優位に立つためには、こういった造り、セッティングになってしまうのも致し方ない、と判断したというのだ。
 誤解を恐れず言うなら、一般道は「ガマンして乗ってください」という前提なのだ。

 購入する大多数の人間はサーキットなどまず走らないだろうに、レースをするその僅かな人達の方を向いてバイクを作っちまったんである。
 もちろん「こりゃすげぇバイクなんだ」っていう優越感とか、所有してるだけでも満足ってのも重要な要素だとは思うが、存在する事に価値は認められるものの、その状態は残念だが道具としては機能していないし、使われていない。
 使い方はオーナーの勝手だろと言われれば確かにその通りだけど、ほとんどその性能が使われない前提で誕生してしまうバイクってのもなんだか可哀想だと思ってしまうのは、贅沢ってものか。まあ、そこを趣味性の高い乗り物、と言ってしまうのは簡単だが…(^_^;。

 ただ、ワシは10Rの絶対性能の高さは気に入ったし、面白いし、素晴らしいと思い、またその高い性能もどちらかと言えば引き出せる側の人間に近いだろうという自負はあるけど、これを一般大多数の乗り手を前提に考えると、ちょっととんでもなさすぎるレベルまで来てるんじゃなかろうか、と。
 もっとも、賢明な一般大多数様は、きっと10Rなんか選ばずに、もっと普通のバイクを冷静に選んでる、ってのが現実かな。また、そう期待するが(^_^;。

 ちなみに10Rの試乗を終えた後、自分のR1に乗ると「結構まだまだイケるじゃないか」と思ったのも事実。低回転からでもドカッと加速するエンジン、しなやかなサス、不足無いブレーキ、そしてなにより楽なポジション(^_^;。バリキだってそうは言っても150は出てるゼ。
 本当に「ツイスティロード」にぴたりと的を絞ってある、という実感があり、ここに来て10Rのようなバイクが出てきた事で一段と98-99R1の狙いが浮き彫りにされたようで、なんとも皮肉と言えば皮肉か。

 こうなると、04R1がどんなもんなのか、非常に不安になる。
 同じ一般道を主眼においた事を標榜していたはずだが、実際はどうなんだろう?レッドゾーンなんて14000rpm近かったはずだし。その謳い文句はカタチだけになってしまってはいないか?
 機会を見つけて是非乗ってみたいものだ。

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