今だから言える「NRで10万キロ走ること」


 2、3年前ほど前にネットを検索していて、本当に偶然だったがその時点で「8万キロ走っているNRがいる」のを知って驚いた。
 千葉在住のPOKOさんという方らしいが、もちろん自分とは面識は無い(はず)。*1
 その後、07年中に9万キロに到達したという情報がやはり見つかったので、08年となる今年はそろそろ大台である10万キロに達したという報告がどこかに上がるのではないかと密かに期待している自分がいる。
 これは全く素晴らしく、羨ましい限りである。

 …またその情報を知る一方でこの時、自分がどこかで長年感じていた、ある種の重圧から解放された気がした。
 もうすっかり忘れたので(笑)過去ログを確認してみると、2000年の時点で自分のNRは既に5万キロを走っていた。が、98年からの2年間では約5000キロしか走行していない記述が見られ、2000年には結婚してそれから先は距離がぴたりと伸びず、以後は車検場への往復…といった状況だ。
 情けないかな、この10年間で自分のNRは1万キロ走っていない。
 96年(発売後4年)時点では4万キロの記述があるので、それまでは1年1万キロ。まあそれからペースが落ちたとしても2000年時点で5万キロ走っているNRは、そうはいまい。もしかすると本当に世界で一番走っていたNRかもしれない。
 つまり「先頭を走る者」として「距離を伸ばしていかなければ」というプレッシャーが意識しないまでも頭の隅にあったという事だ。「距離を伸ばしていく」その先に見える「10万キロ」という数字は説明としてわかりやすい。
 だが同時に少し違った気持ちも自分の中に芽生えていた。カタチを変えることこそしないものの、あっちこっちバラし、電装系、ブレーキなど明らかにオリジナルとは言えないNRが、先頭を走る者であって良いのか。
 勝手な思い込みではあったのだけれど、自分に代わって「先頭を走ってくれる」誰かをこれも無意識のうちに欲していたという訳だ。

 数少ない情報からは、どうやらPOKOさんのNRは限り無くノーマルに近いらしいと。あるべき姿でというのはNRにとって最も好ましい状態ではなかろうか。まさに王道を行く距離の重ね方と言って良い。

 自分は過去、NRに関して「10万キロ走る」とか「それが目標」と言った覚えは一度も無いが、「そこまで走ることができればいいなあ」という思いは(何もNR乗りに限らないが)誰しも一度は抱くのではなかろうか。
 個人的にはそれほど頻繁にバイクを乗り換えないが、過去所有していて10万キロに達したものは(当然と言っていいだろうが)1台も無い。
 10万キロを走るという事はそれだけの時間をバイクに費やすという事であり、それは極端に言えば人生の時間のどれだけを割り当てられるかという事でもある。趣味の乗り物という前提がある場合、時間が経てば自然に辿り着くという類のものではなく明らかに意図を持ってこだわらなくては実現できない数字であろう。そう、「10万キロ」とは「10万キロの距離と相応の時間」という意味だ。
 長丁場の距離を単純に機能を保持し続けられるかという他にも、乗り手自身のバイクに向かう気持ちやそれを取り巻く状況等、影響を受ける要因は多い。それらをトータルで考えると、同一の車両で10万キロの走行距離を達成する事は現実的には難しいと言える。
 こと、走るよりも飾っておく(?)所有者が多いと思われるNRなら尚更であり、しかしそれ故、他のバイクでなく「NR」で10万キロを走ったという事実を残せるならば、比類のない達成感が伴うに違いない。

 だがそう思いながら、また少し違った考え方も頭の中をよぎる。
 究極的には「10万キロ」ですら、本当は目標ではなく通過点に過ぎないのではないか。人は時として、カタチのないものをさもカタチがあるように喩える。
 「10万キロ」とは、単に言い方として実際にはどこまで走れるか分からない目標の距離を代表した表現というだけではないのか。
 実際、彼は07年時点のコメントで「これからだ」という言葉を寄せている。ワシにはそれが「これから10万キロ」ではなく、そのはるか先の道のりに向けて発しているように(ほとんど確信的に)思える。そして、ワシのようなこんな事を思っているヤツがいようがいまいが、多分関係なく彼は走り続けるのだ。

 ところで、自分のNRが10万キロに届くことは難しいと思っている。
 しかし2番手(以降)になった今、あらためて自分のペースでNRは走り出す。あとどれだけ距離を伸ばせるのかは分からないが、ふと気付いた時に10万キロを越えている、そうなったらどんなに素敵だろうと思っている。そこには「目標ではない10万キロ」があっただろうからだ。

 ほとんど可能性は無いと思うが、もしもいつか、POKOさんに会って話をする機会があるとするなら、互いの口から出る言葉は間違いなく「NR乗り(NR持ち、ではない)」のもののはず。NRを距離乗った者(自分とて5万キロ超は走っている)しか持ち得ない言葉だ。
 彼は、どんな「NR乗りとしての言葉」を持っているのだろうか。そしてワシは…(こういった場合、NR乗り失格かどうかは関係ない<がす)。
 その言葉を、聞いてみたい気がする。



*1)08.10.04 にご本人から連絡があり、座談会にてご一緒したうちの一人である事が判明(なんと!


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